【和食】日々の食卓が豊かになる 現代の和食器選びとコーディネート術
はじめに:現代の食卓における和食器の魅力
私たちの日常に根差した和食は、家庭料理から特別な日の献立まで、様々なシーンで登場します。その和食をより一層美味しく、そして心地よくいただくために欠かせないのが「器」です。特に現代の食卓においては、伝統的ながらも現代のライフスタイルに馴染むデザインや機能性を持った和食器が多く見られます。
本記事では、日々の和食をより豊かにするための現代的な和食器の選び方、料理に合わせた具体的なコーディネート例、そして和食器を取り巻く多様な情報についてご紹介します。陶器や磁器といった素材の基本から、人気のある窯元や作家ものの魅力、さらにはオンラインでの購入ポイントやお手入れ方法まで、幅広く掘り下げてまいります。
器は単に料理を盛る道具ではありません。そこにあるだけで食卓の雰囲気を変え、日々の食事に彩りと楽しみを与えてくれます。ぜひ、ご自身の「私の器選びノート」を充実させるヒントを見つけてください。
現代の和食器選びの基本
現代の和食器を選ぶ際には、いくつかの視点を持つことが大切です。伝統を踏まえつつも、今の暮らしに寄り添う器を見つけるための基本的なポイントをご紹介します。
1. 素材:陶器と磁器、それぞれの個性
和食器の代表的な素材である陶器と磁器は、それぞれ異なる特徴を持っています。
- 陶器(やきもの):
- 土を主原料とし、比較的低い温度(約800℃~1200℃)で焼成されます。
- 吸水性があり、使うほどに貫入(表面の細かなヒビ)やシミなどが変化し、味わいが増します(これを「育つ」と表現することもあります)。
- 土の温かみや風合い、ざらつきのある手触りが魅力です。
- 厚みがあり、ぽってりとした印象のものが多いです。
- 例:益子焼、笠間焼、信楽焼など。
- 磁器(やきもの):
- 陶石(ガラス質の原料を含む岩石)を主原料とし、高い温度(約1200℃~1400℃)で焼成されます。
- 吸水性がほとんどなく、硬くて丈夫です。
- たたくと澄んだ金属音がします。
- 薄く成形することが可能で、なめらかでつるりとした手触り、清潔感が魅力です。
- 例:有田焼、波佐見焼、九谷焼など。
日々の食事には、どちらの素材も適しています。土の温かみを感じたいなら陶器、清潔感と丈夫さを重視するなら磁器というように、用途や好みに合わせて選んでみましょう。
2. 形と大きさ:多様なシルエットと機能性
和食器は非常に多様な形と大きさを持っています。
- 飯碗(ごはん茶碗): 高台(こうだい)付きで、手に持った時に馴染む形が基本です。小ぶりのものから大きめのものまで、ご飯の量や手の大きさに合わせて選びます。
- 汁碗(お椀): 漆器や木製が多いですが、陶器や磁器製もあります。手に持っていただくため、軽さと口当たりの良さが重要です。
- 皿: 平皿、深皿、縁付き皿、角皿など様々です。盛り付ける料理のタイプに合わせて選びます。焼き物には平皿、煮物や汁気のあるものには深さのある皿や小鉢が適しています。
- 鉢: 小鉢、中鉢、大鉢とサイズがあります。和え物やサラダ、煮物、丼など、用途が広く汎用性が高いです。
- 湯呑み・急須: 休憩時だけでなく、食後のお茶にも。形や質感で雰囲気が大きく変わります。
形や大きさは、盛り付けやすさや食卓での配置にも関わります。ご自身の食習慣やよく作る料理を考えながら選ぶのがおすすめです。
3. 色と柄:食卓の印象を左右する要素
和食器の色や柄は、食卓全体の雰囲気を大きく左右します。
- 色:
- 白: 清潔感があり、どんな料理も引き立てます。焼き物、刺身、煮物など、色鮮やかな料理におすすめです。
- 黒・紺: 料理がモダンで引き締まった印象になります。油物や、白っぽい食材(豆腐、魚など)がよく映えます。
- 茶・緑: 素朴で温かみがあり、根菜を使った料理や和え物などに馴染みます。
- 青: 涼やかで爽やかな印象。夏野菜や麺類などにおすすめです。
- 釉薬(ゆうやく)の色: 青磁、白磁、織部、飴色など、釉薬の種類によって独特の色合いが生まれます。
- 柄:
- 無地: シンプルで飽きがこず、他の器との組み合わせやすいです。
- 伝統柄: 青海波(せいがいは)、麻の葉、市松、七宝など、縁起の良い柄や美しい曲線・直線の柄があります。
- 草花・自然文様: 季節感を表現したり、食卓に彩りを添えます。
- 抽象柄・モダン柄: 現代的な感性で描かれた柄は、個性的な食卓を演出できます。
柄を選ぶ際は、その柄が持つ意味合いや、料理との相性、他の器との調和を考えるとより楽しめます。
料理に合わせた器選びとコーディネート例
特定の料理に合う器を選ぶことで、いつもの食事が格段に美味しく見え、食卓の景色が変わります。いくつかの例を見てみましょう。
例1:一汁三菜の基本コーディネート
ご飯、汁物、主菜、副菜2品という、和食の基本スタイルです。
- 飯碗: 土の温かみがある陶器製や、モダンな絵柄の磁器製。
- 汁碗: 漆器や木製の他、モダンなデザインの陶器製や磁器製も良いでしょう。高台が高めのものを選ぶとバランスが取りやすいです。
- 主菜皿: 焼き魚なら長角皿、煮魚や肉料理なら少し深さのある丸皿や楕円皿。白や黒、青など、料理の色が映える色を選びます。
- 副菜の小鉢(2つ): 形や色、柄を少し変えると単調になりません。例えば、一つは丸い無地の鉢、もう一つは角形や異形のもので柄があるものなど。
- 配置: ご飯は左手前、汁物は右手前が基本。主菜は奥中央、副菜は左右奥に配置します。器の高さや色合いのバランスを意識すると美しいです。
例2:うどん・蕎麦・ラーメンなどの麺類
麺類は麺鉢が主役になります。
- 麺鉢: 口径が広く、深さのあるものが適しています。うどんなら土の温かみのある大ぶりの陶器、蕎麦ならシャープな磁器、ラーメンならより深さがあり高台がしっかりしたものが人気です。丼ものと兼用できるものもあります。
- 薬味皿: 小さな豆皿や片口皿で、薬味を数種類乗せると丁寧な印象になります。
- 取り皿(必要に応じて): 麺鉢と同じシリーズや、色・柄がリンクするものを選ぶとまとまりが出ます。
例3:丼もの
手軽ながら満足感のある丼ものも、器次第で見栄えが大きく変わります。
- 丼鉢: 高台がしっかりしており、口がすぼまった形や、広がった形など様々です。大きさは、男性用・女性用で選ぶと良いでしょう。色や柄で個性を出すのも楽しいです。例えば、親子丼には土ものの温かい雰囲気の丼、海鮮丼には白磁や青磁の涼やかな丼など。
例4:来客時のおもてなし
少し改まった場では、器も特別なものを用意したくなります。
- 揃いの器: 基本は飯碗、汁碗、皿などを同シリーズで揃えると、統一感が出て上品な印象になります。
- アクセントになる器: 全て揃えすぎず、一つだけ作家ものの個性的な小鉢を取り入れたり、ガラスや漆器など異素材の器をプラスすると、洗練された雰囲気を演出できます。
- 季節感: 季節の花やモチーフが描かれた器、またはその時期に旬な食材の色合いを引き立てる器を選ぶと、おもてなしの気持ちが伝わります。
知っておきたい和食器の種類、窯元、作家もの
和食器の世界は深く、多様な地域や作り手が存在します。いくつか代表的なものを紹介します。
代表的な窯元と産地
- 有田焼(佐賀県): 日本で初めて磁器が作られた場所。薄くて硬い白磁に、繊細で華やかな染付(藍色)や色絵が特徴です。丈夫で日常使いしやすいものから、美術品のようなものまで幅広いです。
- 波佐見焼(長崎県): かつては大衆向けの磁器として知られ、丈夫で使いやすい日常食器が多いです。近年はモダンでデザイン性の高いものが増え、若い世代にも人気があります。
- 益子焼(栃木県): 土の温かみを感じさせる陶器。厚手で素朴な風合いが特徴で、釉薬の種類も豊富です。比較的リーズナブルで手に取りやすいものが多いです。
- 笠間焼(茨城県): 益子焼と並ぶ関東の代表的な産地。自由な作風の作家が多く、個性的でモダンな器が見つかります。
- 信楽焼(滋賀県): 古琵琶湖層から採取される土を使い、素朴で温かみのある風合いが特徴の陶器です。緋色(ひいろ)や自然釉(しぜんゆう)といった独特の色合いが魅力です。
これらの産地以外にも、日本各地に素晴らしい窯元や産地が存在します。旅先で窯元を訪ねてみるのも、器選びの楽しみの一つです。
作家ものの器の魅力
作家ものの器は、一点一点が手仕事で作られており、作家の個性や哲学が反映されています。
- 唯一無二の存在: 機械生産にはない、土や釉薬、焼成によって生まれる偶然性や手仕事ならではの歪み、釉薬のムラなどが個性となります。
- ストーリーと背景: 作家が込めた想いや、作陶のプロセスを知ることで、器への愛着が一層深まります。
- 使い込むことで育つ: 特に陶器の場合、使い込むことで表面の風合いが変化し、自分だけの器に育っていきます。
作家ものの器は、価格帯も幅広いですが、比較的手に入れやすいものから始めることができます。オンラインショップやクラフトフェアなどで様々な作家さんの作品を見ることができます。
オンラインでの器選びと価格帯、正しい手入れ方法
現代では、オンラインショップでも多くの魅力的な器に出会えます。失敗しないためのポイントや、購入後の手入れについて確認しましょう。
オンラインでの器選びのポイント
- 詳細な画像を確認する: 器のサイズ感、厚み、質感、高台の形、色ムラやピンホール(小さな穴)の有無など、できるだけ多角度からの画像で確認しましょう。
- 説明文を熟読する: 素材(陶器か磁器か)、サイズ(直径、高さ)、重さ、食洗機や電子レンジの使用可否、手入れ方法(目止めが必要かなど)といった情報は必ずチェックします。作家ものの場合は、手仕事による個体差についても記載されていることが多いです。
- レビューや口コミを参考にする: 実際に購入した人の感想は、使用感や画像の印象との違いを知る上で参考になります。
- 返品・交換ポリシーを確認する: 万が一、イメージと違った場合や破損していた場合の対応について、事前に確認しておくと安心です。
- 信頼できるショップを選ぶ: 公式オンラインストアや、実績のあるセレクトショップなど、信頼できる店舗で購入することをおすすめします。
和食器の価格帯
和食器の価格は、素材、産地、作り手(窯元、作家)、デザイン、サイズなどによって大きく変動します。
- 量産品・リーズナブルな価格帯(数百円~数千円): 日常使いに適した丈夫なものが多く、スーパーや量販店、大規模なオンラインショップなどで手に入ります。波佐見焼などのモダンなデザインのものもこの価格帯で見つかりやすいです。
- 中価格帯(数千円~1万円程度): 窯元から直接購入したり、セレクトショップで扱われている器が多くなります。手仕事の温かみを感じられるものや、個性的なデザインのものが見つかり始めます。
- 作家もの・高級品(1万円~数万円以上): 人気作家の作品や、伝統工芸品として高い技術が使われた器などが該当します。希少性が高く、美術的な価値も持ち合わせます。
まずは手軽な価格帯のものから揃え始め、少しずつお気に入りの作家ものや特別な器を加えていくのがおすすめです。
和食器の正しい手入れ方法
器を長く美しく使うためには、適切な手入れが必要です。
- 陶器の「目止め」: 陶器は吸水性があるため、使い始める前に「目止め」を推奨されることがあります。これは、米のとぎ汁や小麦粉を溶かした水で器を煮沸し、土の隙間を埋める作業です。これにより、シミやカビを防ぎ、匂い移りを軽減できます。購入した器の説明書に目止めの指示があるか確認してください。
- 使用後の手入れ:
- すぐに洗いましょう。長時間放置すると、汚れがこびりついたり、匂いが移りやすくなります。
- 柔らかいスポンジと中性洗剤を使用します。金彩や銀彩が施されている場合は、研磨剤入りの洗剤や硬いスポンジは避けてください。
- 洗い終わったら、しっかりと水気を拭き取り、十分に乾燥させてから収納します。湿ったまま保管するとカビの原因になります。
- 食洗機・電子レンジ: 器によって使用可否が異なります。金彩や銀彩のあるもの、貫入が多い陶器、漆器、木製のものは基本的に使用できません。購入時の説明書きを必ず確認しましょう。
- 収納: 器同士がぶつかって欠けたり割れたりしないよう、丁寧に扱います。重ねる場合は、器の間に布やペーパータオルなどを挟むと良いでしょう。
適切な手入れを行うことで、器はより愛着の湧く存在へと育っていきます。
まとめ:器とともに日々の食卓を愉しむ
和食器は、単に料理を盛る道具という役割を超え、私たちの食卓に彩りや温かさ、そして豊かな時間をもたらしてくれます。現代のライフスタイルに合わせた選び方、料理に合わせたコーディネート、そしてお気に入りの一点を見つける楽しみは、日々の暮らしをより豊かにしてくれるでしょう。
陶器や磁器といった素材の違い、多様な形や色柄、そして全国各地の窯元や個性あふれる作家たちの存在を知ることは、器の世界をより深く探求する入り口となります。オンラインでも手軽に様々な器にアクセスできるようになり、自分だけの特別な一点を見つけやすくなりました。
これから和食器を選び始める方も、すでにお持ちの器に新しい仲間を迎えたい方も、ぜひこの記事を参考に、ご自身の「私の器選びノート」を広げてみてください。日々の食事が、お気に入りの器とともに、さらに楽しい時間になることを願っています。